日本人の心の原型が縄文時代に形成されこの檄書はその尊い教えが満ちている

加瀬英明

 昨年から今年にかけて、伊勢大神宮、出雲大社、石清水八幡宮をはじめとする神宮において、遷宮式が挙行されました。 遷宮に当たっては、御社だけでなく、装束から、数えきれない多くのさまざまな道具が、昔のままに造られて、再現されます。 このように、時代を越えて大昔の物の形が忠実に伝えられるのは、世界のなかで日本においてしかみられません。


 天皇陛下が一年を通じて、皇居のなかの宮中三殿において、御自身で執り行われる、もっとも聖なる祭祀が秋の新嘗祭です。私は世界の宗教と、神話の研究者です。 陛下はこの大祭を、三殿の賢所で夜を徹して行われますが、天照大御神をお迎えになられて、新穀をお勧めになり、共食されます。 この時のお皿は、柏の葉です。箸は竹を火で焙って曲げてピンセット状にした、箸の原形です。歴代の陛下が太古のお祭りを連綿と続けてこられたのは、畏れ多いことです。 古代ギリシアは西洋文明の源泉ですが、今日、アテネの丘にたつアクロポリス神殿は、観光資源であっても、廃跡であって、心を失ったものです。


 日本では、天皇陛下が執り行われる祭祀をとっても、神社の遷宮をとっても、太古の心が現代に脈々と受け継がれています。このために、日本だけが世界のなかで、二千六百年以上にわたって、万世一系の天皇を中核にして、和の国を営んできました。 木原先生が説かれるように、日本民族は祭祀の心を、力の源としてきました。 皆さんは、日本神話をご存知でしょう。世界の主要国の神話のなかで、最高神が女神であられ、かつ最高神が独裁する絶対神ではないのは、日本だけです。 太陽神・天照大御神が弟神の素戔嗚尊の悪い悪戯に、ご機嫌を損なわれて、天岩屋戸にお隠れになられると、宇宙が暗闇に閉ざされます。すると、八百万の神々が天の安の河原に集まって、えんえんと相談します。 これを「神謀る」といいますが、日本ではつねに知恵をだしあって、協議します。


 七世紀初頭の聖徳太子の『十七条憲法』は、「和ヲ以テ尊シと為ス」から始まって、「大切なことは、全員で相談して決めなさい」と、定めています。人類最古の民主憲法です。 明治天皇が近代日本の船出に当たって、明治元年に『五箇条の御誓文』を発せられましたが、第一条で「広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ」と、論られています。 木原先生がいつも御教示下さっておられますように、日本民族は心の原型が縄文時代に形成され、その豊穣な精神を受け継いできたことによって栄え、発展してきました。


 今回、木原先生が刊行されました『檄』三冊の大型本は、どのページにも、尊いお教えが満ちています。 日本の心を守るために、この心の啓発書が広く読まれますことを、期待します。


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