文化(力)は階級社会のバロメーター
二〇〇四年十一月三日発売のニューズウィーク日本版に『世界国力ランキング』という特集が掲載されていた。一口に『国力』と言っても、その定義となるとなかなか難しいことだと思うが、この特集では、安全保障・外交・経済・文化・生活・潜在力の六つの視点から評価している。
このランキングから、現在の世界情勢を反映した勢力図を垣間見ることができる。
ちなみに、ベスト10を掲げてみると、一位アメリカ・二位フランス・三位ドイツ・四位イギリス・五位日本・六位ノルウェー・七位スウェーデン・八位カナダ・九位オーストラリア・十位中国となっており、欧米八カ国、アジア二カ国という現実である。
私がこの特集の中で特に興味を持ったのは、『文化』の紙面である。その紙面の冒頭に、
『文明と文化がパワーを生む今の時代には、生活の質と国力を測る大事な要素の一つに…』
という、ニューへブン大学のウシャ・ヘイリー教授の言葉が載っていた。そして、記事の中に、次のようなことが書かれていた。
国の実力は経済的な要素だけで測れるのか。国連開発計画(UNDP)の「人間開発指数」は、生活の質をもっと多面的にとらえようとしている。具体的には、平均寿命・教育達成度・国民一人当たりの所得(購買力を基準に算出)の三要素を均等な比重で織り込んで指数化する。
二〇〇二年の統計に基づく最新指数によると、世界のトップ5はノルウェー・スウェーデン・オーストラリア・カナダ・オランダ。七位アイスランド・アメリカは八位・日本は九位だった。
ほかの主要国は軒並み振わない。イギリス十二位・フランス十六位・ドイツ十九位・イタリア二十一位・ロシア五十七位・ブラジル七十二位・中国九十四位・インド百二十七位。
私は、この記事を読んだ時、世界大国と言われている国々がなぜ文化(力)で上位にいないのか不思議である。これは、経済格差が間違いなく起こっており、階級社会そのものの社会現象に他ならないと直感的ヒラメキを感じたのである。
なぜなら、文化(力)はその国の経済レベルを、生活の質から測れるバロメーターであるからだ。
日本も階級社会になりつつある
現在の市場経済第一主義に基づくグローバルスタンダードは、地球規模で経済格差を生じ、ますます貧富の二極化が進んでいる。
図は月刊誌『ウェッジ』の3月号に載った貯蓄に関する記事である。
また、二○○四年家計の金融資産に関する世論調査のデータによると、自己破産者が急増しているし、日本の将来を担う若者の失業率やニート(若年無就職者)、フリーターの急増は危惧すべき傾向である。また既に始まっているものも含め最近の国家の政策を見てみると、
・『個人住民税の「均等割り」の増税
・「所得割り」の累進税率の廃止
・配偶者特別控除の廃止
・児童扶養手当の縮小
・年少扶養控除の廃止
・消費税の増税
・児童手当所得制限枠の縮小
・医療費控除枠の引き上げ
・マル優制度廃止
・第3号被保険者制度の廃止
・年金受給者への課税強化
・訪問看護の国庫補助に上限枠
・特別扶養控除の縮小、廃止 』
これらの内容はまさしく貧乏人冷遇政策につながるようにみうけられるのである。以上の貯蓄・自己破産・貧乏冷遇政策・失業率の4つの視点から洞察しただけでも、その裏に見えてくるのは、上流社会と国民の大多数を占めている中流以下との経済格差が確実に開いているということである。
このような現象は産業界においては、大企業優遇、中小零細企業冷遇の中に既に起こっていることである。日本の約1000万社と言われる企業の中で大企業は5%位でありながら、その大企業に富は集中し、中小零細は下請けとして、生かさず殺さずの経営を余儀なくされている現実は数え切れない。この現象そのものが階級社会の特色なのである。
階級社会の恐怖
階級社会到来の恐怖はいろいろあるが、代表的な事例を6つ挙げてみると、
一、上流社会がほとんどの権益を握っているので、貧乏人はいくら才能・能力があってもチャンスが生かせない
二、ほんの一握りの金持ちと大多数の貧乏人に分かれ、中流社会(年収三〇〇万~七〇〇万)が消滅し貧富が二極化する
三、間接・直接奴隷社会となり、倫理・道徳の低下による犯罪が多発する
四、一度階級社会になると二度と平等機会社会には戻らない
五、汚職社会・不正経済社会となり社会正義消滅
六、暴力(テロ)革命の危険性が急増する
このことは大変な危険性を内包することとなる。
このままいけば、ほんの一握りの上流社会が国家の美味しいところ(権益)を独占する階級社会の恐怖は、不平等社会を作ることとなり、国民の生活力は衰え、ひいては、文化(力)が衰えてくることになるのである。 大国と言われる先進国が文化(力)で上位に入れない原因がここにあり、まさに階級社会病になっている証拠でもある。日本も、今、間違いなく階級社会へと進みつつある。階級社会の到来を是非とも回避しなければならない問題の本質は
一、民力(生活力)の低下
二、国力の低下
につながるということである。
これは、究極は日本国滅亡のシナリオになるからである。だからこそ、なにがなんでも『階級社会の到来』は阻止せねばならないのである。そのためには、今一度、日本の文明史観…、歴史・伝統・経済・文化…を見直す必要がある。
むしろ、日本の文明史観の中にこそ二十一世紀の宇宙船地球号そして六十三億の乗務員が生き残れるシステムが秘蔵されているのである。